肌感覚EV普及率 ~デジタルの時代にこれかよ~
遂に「Formula-e」が日本にやってきた。日本初の公道レース開催、しかも地上波テレビで放送もしてくれるというのに前宣伝も見なかったし、レース専門雑誌『オートスポーツ』でも以前から大々的に取り上げてなかった気がするから、大して人気がないのだろうと余裕をぶっこいてたらチケットが完売してた。
コロナ禍前は1年に1~2回程度、電気自動車のレースを観ていた。と言うか観戦料というものがないから観させていただいていたことになる。昨年も1回行っている。向かった先は茨城県の筑波サーキット。日本電気自動車協会(JEVRA=Japan Electric Vehicle Race Association)さん主催の2023年シリーズ第1戦「全日本 筑波EV55kmレース大会」だ。これは2023年4月22日(土)に行われた。
エントリー台数は8台とやや寂しかったものの、最上位クラス「EV-1」での3台のテスラ・モデル3による争いが面白かった。27周のレース中、始終スピードが落ちることなく迫力があった。前回観たのはいつのことだろうか。5年以上前か。まだモデル3が発売されていなかった頃だ。当時は1台のモデルSだけがぶっちぎりに速かった印象がある。他の車両は電費を気にしてペース調整をしていたのか、あるいは出力が小さいからなのか、モデルSとの明らかな速度差を感じた。今回はそんなことはなく、モデル3同士のバトルが見られてこりゃ楽しい。最初から最後までペースが落ちることはない。実際にはバッテリーの残量や温度を気にしながらの駆け引きが繰り広げられているのだろうが、傍から見ていてそれは感じられない。「Formula-e」の放送から聞こえてくる「キーン」という音もなければ「キュルキュル」という音もしない。タイヤのノイズだけである。しかし、それでも結構速く見えるのである。様々なエントリーカテゴリーのレースを筑波サーキットの第1ヘアピンから観てきたが、エンジン車と何ら遜色ない。これならば10台くらいのモデル3でワンメイクレースをやったら盛り上がると思う。駐車場には30台くらいのテスラが終結していて圧巻の光景だった。富裕層の皆さん、ぜひともレースにエントリーしておくれ。
そんなモデル3を推すEVの本が昨年発売された。高橋優さんという方の『EVショック ガラパゴス化する自動車王国ニッポン』(小学館新書、2023)である。「モノ」にフォーカスした内容のこんな本を私は待ち望んでいた。日産リーフ、テスラ・モデル3、モデルYを延べ8年間乗り継いできた著者はその経験を活かし、ユーザー目線で、今の日本で乗りたいオススメの5車種を紹介してくれている。私にとって近年に出版された電気自動車関連の書籍の中でも最も面白く感じた一冊だった。
古い情報ですいません。『週刊エコノミスト』の2022年1月18日号に世界で売れているBEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)のベスト20が載っていた。その内の4台がPHEV車。日産リーフは18位、トヨタRAV4 PHEVが16位。日本車はこの2台のみ。テスラ、中国メーカー、VWなどが上位に名を連ねる。韓国勢も検討している。写真を見ているだけでも面白いし、どこのメーカーが優勢なのか参考になるので迷うことなくこの雑誌を買った覚えがある。
2022年の春頃から自動車専門誌にも徐々にBEVの特集が組まれるようになった。『カーアンドドライバー』2022年5月号もその一つ。「日本で買えるBEV」の特集記事を見て驚いた。日本車が7車種なのに対して輸入車が実に19車種もある。中国メーカー皆無でもこの数字である。(BYDが日本市場にBEV乗用車で参入すると発表したのは2022年7月)日本の自動車業界がBEVの是非を議論している間にじわじわと侵食された感がある。
そう言えば品川区にある、昔から富裕層が住む住宅街を久しぶりに通り抜けたら、なんと半径200メートルくらいのエリアに4台のテスラが置かれていてびっくりした。圧倒的にドイツ車優勢の土地柄で、いつの間にか一部がドイツ車から置き換わっている印象を受けた。
私は2年前から毎週末クルマで出かける際に、入場者数や交通量を調べるためのカウンターを持ち歩いている。これで何をしているかというと、出逢った電気自動車を数えているのである。50代半ばを過ぎてNISAやChat GPTなどに勤しんでいるのかと思いきや、スマン。これはヒマ過ぎだ。最初はカウンター1個だけで始めたが、リーフの現行型と初期型、テスラの数がぐちゃぐちゃになってしまい、こりゃ話にならん(やってること自体が話にならんが)ということで、リーフの現行型用、リーフの初期型用、テスラおよびその他車種(始めた当初は三菱i-MiEVとか、ポルシェ・タイカンとか、郵便車とか)用に色の違うカウンターを揃えることになった。BEVが普及しているのかどうかの比較対象として選んだクルマは私が乗っているのと同じスバル・サンバー(TV系、TW系)である。2012年に販売が終了したにもかかわらずサンバーの人気は根強く、今でも本当によく見かける。サンバーと同じくらいの台数を見かけるならばBEVも結構売れていることになると思い台数を競ってみた。なお、サンバーはバンでもトラックでも一緒にして数えている。1998年以前のKS・KV系、そして稀に見るKR・KT系も含む。
ルールはこうだ。街中で走っているのを見かけたらカウントするのは勿論、新車ディーラーや中古車販売店の店頭に置かれているものもカウントする。この調査をやっているとディーラーがBEVの販売に力を入れているのかそうでないないのかがよく分かる。いつも通る道端のお宅のクルマも毎週カウントしている。BEVに乗っていたのに、ある頃から見かけなくなり、「あー電気自動車やめちゃったのか」と思うことがあれば、反対にリーフとフツーの軽を持っていたお宅がリーフとサクラの2台使いになるというケースも見かける。さすがに解体車や廃車らしき個体はカウントから除外している。
スバル・サンバーとBEVの数が比較できるデータが揃ったのは2022年8月から。以下は、週末に350km~800kmくらい走り回って見かけたBEVとサンバーそれぞれの平均台数である。2022年8月~同年12月では、BEV19台に対してサンバーも19台と、この時点で既にイーブンだった。2023年1月~同年12月を見てみると、BEVは29台、サンバーは25台でBEVの勝ち。2024年1月~同年5月の数字は、BEV31台、サンバー29台でBEVの優勢が続いた。
地元の茨城県北部であれ、東京都心部であれ、都市近郊のベッドタウンであれ、週末を通して平均すると、10台の現行型リーフ、3台の初代リーフ、13台のテスラおよびその他車種に出くわすのである。私が乗っている2台の内の1つであるホンダ・エディックスなんかは800km移動しても1台見かけるかどうかのところだ。サンバーの目撃数には例外がある。茨城県内でも特に農業が盛んな鹿行(ろっこう)地域では、現役で活躍しているサンバーの数が物凄い。週末を通じて30~50台を数えるのである。
2023年の日本国内の軽自動車を含む乗用車全体の販売台数に占めるBEVの割合は2%強程度と言われているから(日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会の発表による)、「売れてない」という印象を与えるが、DXの時代に肌感覚だけで生きている「A×」(アナログばってん。「X」じゃないよ)の私から見ると、今でも驚きと共に「ずいぶんと走ってるなぁ」という感がある。
2022年にはリーフの旧型もよく見かけたが、最近はだいぶ数が減ってきた。街中でもあまり見かけないし、中古車店の店頭からも消えている。一体どこに行っちゃったのだろう。日本人が見放したクルマが外国で有難がられているのだろうか。それと入れ代わるようにリーフの現行型とテスラを本当によく見かけるようになった。BEVに対してそれ程関心が高くない人でも「リーフとテスラをよく見かけるな」と薄々感じているのではないだろうか。実際に交通量の多い時間帯になれば、地域を問わず5~10分おきに1台のリーフを見かける。都心に入るとそれがテスラに代わる。2022年12月に日産がリーフの大幅値上げを発表した。それ以降、リーフの売れ行きが落ちたと報じられることが多い。それは事実だとしても、新車の売れ行きが落ちたからといって見かけないクルマになったわけではないのである。
日産サクラも増えてきた。自宅の近所だけでも3軒のお宅が所有されている。更に2023年の春頃から、日産アリアも少しずつ見かけるようになってきた。カーセンサーで検索してみたら新古車価格が600万円くらいしていてびっくりした。これは高級車だったのか。確かにエレガントなクルマだ。どおりで軽井沢でよく見かけたわけだ。
私は欧州車に疎く、その上、最近のクルマはエキゾーストパイプを主張しないデザインが多いようで、BEVなのかどうかさっぱりわからない。『CAR and DRIVER 特別編 xEV YEAR BOOK 2023』(毎日ムック)という電動車のガイドブックを常にクルマに積んでいるけれども、欧州メーカーのBEVを見かけても気付かずに見過ごしている可能性が高い。テスラやポルシェ・タイカン以外にももっと多くのBEVが走っているかも知れない。日本でもBEVは一定規模の市民権を得ているのだ。
その反面、2年間、街中BEVウォッチングをしてきた中で、Honda-eは数ヵ月に1台見かけるかどうかという少なさである。これでもまだましな方で、トヨタbz4x、スバル・ソルテラ、マツダMX-30 EVモデルは発売初期の頃にディーラーの店頭で一度だけ見かけたかどうかの記憶しかない。ヒョンデの方がまだ売れている。つまりクルマの出来はともかくとして、消費者から全然支持されていないのである。
今日は言いたいことをはっきりと言わせてもらおうじゃないか。トヨタさん、いったい何をしているのだ。リーフの競合車を今すぐにでも出しておくれ。昔のトヨタだったら、日産が出してくる、あらゆる車種にいちいち対抗馬をぶつけて潰しに来ていたじゃないか。中途半端なBEVを出しては顧客に申し訳ないからといって、BEVに関してあの自信の無さは何なんだろうかと思う。bz4xの実物をみたことがある。なかなかの存在感だったぞ。勿体ない話だ。リーフの性能レベルでも乗ってみたいと思う人が一定数いるのに応えないのは何なんだろうか。電池の技術もモーターの技術もあり、プリウスやクラウンのような、あんな前衛的なデザインも造れるのなぁ。「小型モビリティがBEVの最適解なんだからC+pod」つっても、いつまで実証実験カーみたいなものを繰り返すのか理解に苦しむ。
「内燃機関廃止戦略はフォルクスワーゲンがトヨタを陥れるために仕掛けた罠だ!」私もそう思う。石油を燃やして得た電気をわざわざ遠いところへ送電して、その電気を使ってクルマを走らせる馬鹿馬鹿しさも承知の上だ。実際にはハイブリッド車が総合的に最も優れているであろうことも理解している。中国でも米国でもBEVだけでなくPHEVも売れていることも知っている。わが国の自動車産業の存亡の危機に関わる重大な問題であることはわかっているけれど、「電気自動車とハイブリッド車のどちらが正しいか」といったイデオロギーの対立みたいにならないで、電気自動車を、単純にあるセグメントのユーザーの嗜好の一つとして捉えてもらえないものだろうか。
リーフとテスラを100台見かける間に1台もBEV商品を見かけることのないトヨタとホンダが揃って「2030年までにEV350万台を販売する」(その後「2026年までにEV150万台を販売する」と発表)とか「2040年までに新車販売の全てを電気自動車と燃料電池車にする」などといった意欲的な目標をぶち上げている。ディーラーの目立つところにEVを飾っているわけでもなく、今あるものでも試乗してもらえるよう熱心に説いていそうな感じでもないのに、今からほぼゼロベースで本当にやるのかと違和感しかない。先日、栃木県のとあるホンダディーラーの前を通りかかったら、敷地の片隅に4~5台のHonda-eがひっそりと置かれていた。下取り車のような寂しげな雰囲気を漂わせていた。
「電気自動車は不便、役に立たない、実用性に劣る、実際にはエコではない」などと言っている内に、確実に浸透している実感がある。そして恐れていることが起きた。2023年、中国のBYDが日本市場にBEVの乗用車を展開し始めた。試乗した自動車ジャーナリストからも上々の評判を得ているようだ。中国人の方には大変失礼だが、今までだったら多くの日本人が「中国車なんかみっともなくて誰も乗らないだろう」と思っていたはず。かつての現代自動車の日本進出の時がそうであったように、「日本で中国車は売れない」「すぐに撤退するだろう」と予測している日本人が大半ではなかろうか。こうしたことを考えていると、いつも思い出すのは1970年代初頭のアメリカ自動車産業のことである。
皆さんは『覇者の奢り 自動車・男たちの産業史』(日本放送出版協会、1987年)という本をご存知だろうか。ピューリッツァー賞受賞作家のアメリカ人、デイビッド・ハルバースタム(David Halberstam)という人が書いた自動車産業のノンフィクションだ。著者のあとがきによれば、アメリカ自動車産業の没落と同時に起きた日本の自動車産業の興隆について、主にフォードと日産自動車の人物を通じて捉えようとするものだった。
これを読むと、日本車が本格的に米国に輸入され始めた頃、当時のアメリカ自動車産業の経営陣達が日本車をどのように捉えていたかを窺い知ることができる。第一次オイルショックが起きた1970年代の初頭では、一部の車種を除き、未だ日本車はアメリカ人に馬鹿にされていた。フォルクスワーゲンの「ビートル」であれば、ライフスタイルあるいは反ステータス主義の体現とも言えそうだが、日本車に関しては単なる倹約家(または貧乏人)のためのクルマに過ぎなかった。日本車が売れ始めた頃でさえも、「ビッグスリー(今のデトロイトスリー)」は、景気が良くなれば顧客は自社の大型車にまた戻ってくるだろうと楽観視していたし、自国の消費者のことは自分達が一番よく理解しているという絶対的な自信があった。日本車なんか鼻にもかけなかった。しかし、その後、日本車人気の長期的なトレンドは衰えることはなく、失ったシェアは二度と戻ってこなかった。
この本にはアメリカ自動車殿堂入りを果たした多くの有名人が登場する。その中の一人、「ミスターK」こと日産自動車の片山豊さんがアメリカで孤軍奮闘し、市場を開拓していった物語も出てくる。それによれば、日本車というものは、より新しく、より大きなクルマを売りつけようとするアメリカの自動車産業から取り残された、あまり裕福とは言えない人々のためのクルマだった。ビッグスリーの経営陣達は、後に「名車」と呼ばれることになるDatsun 510の登場ですら真に受けなかったという。
いつもどおり横道に逸れる。イギリス人作家アーサー・ヘイリー(Arthur Hailey)の小説、『自動車』(新潮社、1973年。原題は『Wheels』、1971年)を手に入れた。これは私が小学生だった頃にお母さんの書棚にあった本だ。背表紙の記憶だけがあり、この年になるまでずっと「これはT型フォードの時代かなんかの話だろう」と勝手に思い込んでいた。偶然にこの本の文庫版を茨城県つくば市にあるクルマとバイクのカタログ専門店「ノスタルヂ屋」さんで見つけた。表紙にポンティアック・ファイヤーバードが描かれているのを見て初めて現代(といっても1970年代)の自動車産業が舞台であることを知った。主人公が役員を努める自動車メーカーは、ゼネラルモーターズがモデルとなっていると思われる。その中で外国車をリバースエンジニアリングするシーンがある。対象となる外国車二台の内の一つはフォルクスワーゲンだった。そしてもう一台は日本車である。解体を担当している年配メカニックは日本車を指してこう言い放った。「これだけはいっておきたい。わたしだったら好きな人間にはこんな車を乗りまわしてもらいたくないですね。四輪のモーターバイク、それもちゃちなモーターバイクですよ。これは」と。自動車後進国のクルマなどは調べる価値も無かったかのようだ。
私は経済アナリストでもなければ政策の評論家でもない。新橋駅前の雑踏の風景に同化しそうなフツーのおっさんである。「水素社会は絶対に来ない」などと意地悪なことをおっさんは言わない。水素スタンドの数が少なくてもトヨタのMIRAIに乗りたい人は乗ればよい。私はタクシー払い下げの日産セドリック・セダンが欲しい。オートガス(LPG)スタンドがどこにでもあるわけではない。いやどこにあるのかわからないのを承知で乗りたい。不便だとわかっていても乗りたいのだから仕方がないじゃないか。電気自動車に話を戻すと、そもそも「ガソリンスタンドの店舗数と充電スポットの数の比率が何対何になったらEVにしよう」などと合理的な動機を持っている人は少ないのではないだろうか。BEVが普及するかどうかは必ずしも充電インフラの充実度が決めるわけではないと思う。イーロン・マスクが好きだの、ファッショナブルだの、所有感だの、ライフスタイルだの、ステータスだのといった情緒のクルマだと感じている。
1970年代当時のアメリカの「大型車で利益が出ているのに、なぜわざわざ小型車を売らねばならないのか」は、現在の日本の「ハイブリッド車がエコロジーの最適解として消費者の支持を得ているのに、なぜBEVを作らなければならないのか」に似ている。得意なところ以外やらないよ、と。しかし今収益の上がるところだけを狙っていたのでは、徐々に世の中の一部の人々の考えと乖離していくだろう。日本で中国製のBEVが売れ始めてしまってから日本のメーカーが慌ててBEVを出しても手遅れになるのではないかと心配になってくる。日本車が得意とするカテゴリーにビッグスリーが商品をぶつけてきても、その多くが日本車の後塵を拝してきたのとダブって見えてしまうのである。
「中国でBEVが売れているのは国策だからだ。政府の後押しがあるからだ」と多くの人は言う。でも、そもそも政府が自国の基幹産業を守り、育成していくのは普通のことではないだろうか。かつての日本でも通産省(通商産業省)が我が国の自動車産業を保護し育成してきたし、アメリカだってビッグスリーが窮地に陥れば救済してきたではないか。いくら国家の後押しがあったからと言ったって商品力がなければここまで売れるはずがない。ここは素直にテスラとBYDの実力を認めるべきではないだろうか。
もう一つ。私は、中国自動車産業の実力を侮るべきではないと感じている。
私は2013年に出張で延べ5週間、上海に滞在したことがある。その当時から上海の街には電動バイクが溢れていた。現地駐在の日本人の方にお世話になり、あちこち連れて行ってもらった。彼によると、夜に無灯火で走る電動バイクが多く、音もなく近づいてくるから気を付けて歩かないと危なっかしいという。庶民が暮らす集合住宅の駐輪場に充電用の電源ソケットが沢山設置されていたことを思い出す。
その当時に出版された『中国自動車市場のボリュームゾーン 新興国マーケット論』(塩地 洋 編、昭和堂、2014年)という本がある。著者は各国の自動車産業を研究されてきた京都大学の先生である。これに出てくる低速EV車の話が興味深い。中国の低速EV車は山東省を中心に発展してきたという。主に農村で重宝されてきた登録不要、運転免許証不要、保険加入不要のマイクロカーである。本当は登録も免許も必要とされているものの、地域経済の発展を優先させたいといった理由によるものなのか黙認されていたらしい。著者も含めて日本の自動車専門家から見ると、これらの低速EV車はとても「自動車」とは呼べないシロモノだということだが、農村に住む中国人にとっては自転車やオートバイよりも行動半径を広げてくれるものであり、また、同時に遠く離れた場所での就労の機会を増すことにも貢献してくれるといった役立つ存在として描かれている。鉛電池による駆動で航続距離は短くても、また装備が簡素でも長年親しまれてきたのだから、上海通用(GM)五菱汽車の宏光MINI EVのようなベーシックカーでも十分に有難がられているのではないだろうか。また、この本によれば、「汽車下郷政策」(自動車を農村に普及させる政府主導の景気刺激策)の補助金の恩恵を受けた上海通用(GM)五菱汽車のミニバン「五菱之光」が「農村のミニバン」として自動車ブームの牽引役となったそうだ。同じ会社の宏光MINI EVは信頼できる「自動車」ブランドとして認められているのかも知れない。
山東省では、電動二輪・三輪車、そしてそれらよりも一足早く電動化が進んでいた農業用専用車の産業と同じように、低速EV車の世界でも完成車メーカーはシャーシー以外の全ての部品を社外から調達できる産業構造が確立されているという。一体型アクスル、インホイールモーター、そしてボディ(FRP製、鋼鉄製のどちらもある)までも買ってくることができるそうだ。こうしたことは10年以上前から周知の事実だが、改めて中国の電気自動車産業の裾野の広さには驚かされるばかりである。
出張当時、自動車ディーラーのことではないが現地で聞いた話として、中国の国土面積は日本の約26倍、人口は日本の10倍以上だから、日本で50店舗展開するチェーンストアのイメージが現地では500店舗の規模になるというから恐ろしい。規模の経済が働きやすくなるし、電池交換ステーションのような上手くいってるのかわからないようなものでも、凄いスピードで広がっていくから、その内に学習効果が現れて成功させてしまうかも知れないのだ。
中国車が好きとか嫌いとか(そもそも日本人で中国車が好きな人は殆どいないと思うが)、関心があるとかないとか、そんなことは関係なく、きちんとウォッチしていた方がよいと思う。「中国車=パクリ」だの、「中国車=低品質」だのと、何十年も前のイメージ引きずって無視をきめこんでも仕方がない。
先日、日本の自動車メーカーで電池開発をしている方がこんなことを言っていた。テスラ・モデル3に乗っている友人が奥さん用のクルマを検討する中でBYDのショールームを訪れたという。前評判どおり、結構いいクルマだったそうだ。たったのn=1の話ではあるものの、「世界的に売れている優れた電気自動車であればメーカーの国籍は問わない」となんてことを言い出すコスモポリタンな人たちが増えてしまったら、わが国の自動車産業にとっては困るのである。と、ナポリタンみてぇな顔した私はそれが言いたかった。
私は新型車そして最新テクノロジーに対する関心を失ってしまい、何十年もの間、新車情報雑誌に目を通してこなかった。しかし、数年前から『ニューモデルマガジンX』(ムックハウス)を毎月欠かさず買っている。この雑誌はモノとして出来の悪いBEV車があれば、それがドイツの高級車だろうと遠慮なく低い評価を下す。また、各国、各地域のBEV をめぐる政策に無理矛盾があれば指摘しているけれども、BEVの普及については良いとも悪いとも言っていないニュートラルな立場であるように私には見える。
この雑誌の中でも、毎号特に楽しみにしているのが、加藤ヒロトさんの「中国が熱い!!」だ。中国自動車産業の戦略について論じている本は幾つか出ていて、私も何冊か持っているけれども、この連載記事に見られるようにクルマそのものに目を向けて情報を発信してくれる人は貴重な存在である。(どうやったらこの方の『中国車ガイドブック』を買えるのかな)
おっと、そろそろ出かけないと。前の週末にカウントしたBEV達とサンバーの台数を手帳に書き込む。仕事用の手帳に。いつの日か、プロの交通量調査員が使っている、あのベース板を自作することだろう。「今週は電気自動車が勝つか。それともサンバーちゃんが勝つか!」これは複数のエレベーターがあるビルのエレベーターホールで、「どっちが早く来るか? こっちか。それともこっちか?」と言ってはエレベーターホールを幸せな空間にしてしまう年配男性と同じである。
さっきはC+podをディスってしまったが、「あれが家にあったらいいよなぁ」と夢が膨らむ。昔からミツオカのBUBUとか、タケオカ自動車工芸のアビーとか、トヨタのコムスなんかのマイクロカーが大好きだから。ドリームはある。けれどもカネはない。会社での唯一の肩書きが「ネスカフェ・アンバサダー」なんです。道筋もない。
(おしまい)