付加価値のない自動車会

~副題 クルマだらけの間違いづくし~

22世紀に間に合わんなこりゃ。

昨今、電気自動車のニュースが騒がしい。「イギリス 2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する方針を発表」とか「EU 2035年以降の新車販売においてハイブリッド車を含むガソリン車やディーゼル車の販売を実質的に禁止する方針」等々。ホンダは2040年にグローバルで電気自動車、燃料電池車の販売比率を100%にする方針を掲げた。2021年12月14日にトヨタが「バッテリーEV(BEV)戦略に関する説明会」を開催して以降、益々拍車がかかり電気自動車の話題が連日ニュースを賑わせている。HV車ではトヨタに勝てるわけないし、圧縮着火のガソリンエンジンという素人の私から見たらあり得なさそうなものまで日本は進んでいるようだから(マツダ)、もう世界は内燃機関を諦めたか。電気自動車への買い替えムードが一気に高まってきた時、選りどりみどりのラインナップは用意されているだろうか。十分な数のBEV車は中古車市場に出回っているだろうか。

免許証の自主返納を考える歳になるまであと20年くらいは運転できるだろう。もうかれこれ16年16万キロ近く乗ってきたホンダ・エディックス(BE1)がこの先20年もつとは思えない。何か致命的なトラブルに見舞われたらどうしようかと常に気を揉んでいる。乗り替えるにしてもHV車は単なる食わず嫌いという理由で欲しいとは思わない。軽でもいいけれどもう少し車格が大きいクルマに乗りたい。それでいて燃費の良い普通車は無いだろうか。

日産ラティオ(N17)はどうかな。マーチと同じくタイ国での生産と聞いている。元々ホンダ・フィット・アリアのような新興国車はウエルカムな質(たち)だ。ラティオはあのスタイル、あの車格でもってターボ無しの1,200ccと知ってちょっとびっくりした。`70年代のファミリーカーみたいだ。3気筒エンジンっていうのもシャレードか。でも今は1気筒あたり400cc程度の排気量が最も燃焼効率的に有利だと『モーターファン・イラストレーテッド』第174号「直3 vs 直4」(三栄、2O21年4月28日発行)に書いてあった。なんだ私が知らなかっただけで3気筒は世界的潮流だったのか。

ラティオについてのネット口コミを読むと、内装が安っぽいプラスチックだの低グレードにはトランクオープナーレバーが付いていないなどと酷評されているみたいだけど、日産・ADバン/NV150ADのような装備・内装のクルマが好きだし、若い頃に乗っていた`81 シボレー・インパラの低トリム車にもトランクオープナーは付いていなかった。今乗っているエディックスのリモコンキーが壊れてしまってからは(クルマって色んなところが壊れるんだね)いちいち鍵穴を使ってドアを開けている。もうこれにも慣れた。一般ユーザー向けの最低グレード「S」でも更に装備が簡素なビジネスユース向けの「B」でも私はラティオと共に生きて行ける。

一度買ったクルマは余程大きな故障でもしない限り長く乗るつもりだから日産・ラティオが人生最後の愛車になってもおかしくはない。しかしEV車への買い替えを促そうと純エンジン車の税金を不当に高く吊り上げるなんてことを政府はやりかねない。もう一回純エンジン車でいいのか迷うところ。

一年前、2012年式のスバル・サンバーがベースのキャンピングカー、アウストラ社の「キャンビー」を買った。それ以来、週末は殆どこのクルマで出掛けるようになった。 週末だけで450km~800kmくらい走り、一年でオドメーターの距離は24,000km進んだ。高速道路もよく使う。エンジン回転数を低く抑えるためになるべく80km/hで走っている。一番左側の走行車線オンリーの走り方にすっかり慣れてしまいエディックスで高速に乗った時も80km/h~90km/hで走るようになった。サンバーが来てからエディックスは完全に通勤専用車化した。一日10km~30km、週に多くても150km程度しか走らない。エディックスで高速道路を使うのも月に一回程度。高速に乗っても80km/h~90km/hで巡航しているだけ。こんな使用実態ならば電気自動車でもなんかいけそうな気がしてきた。BEVなんてあり得ない選択肢だと信じていた自分にも心境の変化が現れ始めたのである。

アーリーアダプターとは真逆のくせに、なぜか昔から電気自動車が好き。エコとか何とかよりも単に変わった乗り味のクルマに興味があるから。1990年代~2000年代にかけても静かな電気自動車ブームがあった。環境省らが主催した「エコカーワールド」や日本EVクラブの「全日本EVフェスティバル」に出掛けたり、2010年代に入るとJEVRA(Japan Electric Vehicle Race Association = 日本電気自動車レース協会)のレースを観に袖ヶ浦フォレストレースウェイ筑波サーキットを訪れた。8輪インホイールモーター駆動、最高時速370km/hで話題になったスーパー電気自動車「エリーカ」の特別展示イベントで実車を目にしたこともある。(そう言えば関係ないけど「エコカーワールド」に天然ガスエンジンのスバル・レガシィが置いてあったな)

なので書店でEV関連の本やEVの特集が組まれた雑誌を見つけるとついつい買ってしまう。改めて自宅の本棚を眺める。ここ数年でこんな本を読んでいたんだなぁ:

VWの失敗とエコカー戦争 日本車は生き残れるか』(香住 駿、文春新書・文藝春秋、2015)、
『EV新時代にトヨタは生き残れるのか』(桃田 健史、洋泉社、2017)、
『日本 vs アメリカ vs 欧州 自動車世界戦争 EV・自動運転・IoT対応の行方』(泉谷 渉、東洋経済新報社、2018)、
『EVと自動運転 クルマをどう変えるか』(鶴原 吉郎、岩波新書岩波書店、2018)、
『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』(田中 道昭、PHPビジネス新書・PHP研究所、2018)、
『2030 中国自動車強国 世界を席巻するメガEVメーカーの誕生』(湯 進 タン・ジン、日本経済新聞出版社、2019)、
2035年「ガソリン車」消滅』(安井 孝之、青春新書・青春出版社、2021)、
『日本車は生き残れるか』(桑島 浩彰・川端由美、講談社現代新書講談社、2021)

雑誌も色々とある:

週刊東洋経済 2017年10月21日号「日本経済の試練 EVショック」、
週刊ダイヤモンド 2017年10月21日号「パナソニック トヨタが挑むEV覇権」、
日経BPムック 2018年4月23日号 『日経ビジネス まるわかりEV電気自動車』、
週刊東洋経済 2021年10月9日号 「自動車立国の岐路」、
日経マネー2022年1月号臨時増刊 『日経ビジネス総力特集 徹底予測2022』内「EV覇権 欧州の野望 VW, テスラ, トヨタの頂上決戦」、
週刊エコノミスト 2022年1月18日号 「EV & 電池 異次元の加速」

『首都感染』(講談社、2001)の著者、高嶋哲夫さんが書かれたビジネス小説『EV イブ』(角川春樹事務所、2021)も読んでみた。

ビジネス書誌なので当たり前のことだがCASEとかMaaSとかシェアリングエコノミーとかIoT、AIのビジネスモデルの話ばっかだ。情けない話、こんなに沢山読んでても内容全然覚えておらず。最初から分かった上で買っているけど「モノ」の話はどこ行ったんだ。とは言え、様々なEV車を新旧交えて紹介してくれている『E-MAGAZINE』(ネコ・パブリッシング)の第3号がなかなか出てこない。そんな中、『家電批評』(普遊社)2021年5月号に「最新電気自動車グランプリ2021」の特集が組まれていることを知った。運良く最寄りのブックオフさんで見つけることが出来た。今の日本で買えるEVを比較した有り難い雑誌。但し未だEVのラインナップが少ないから日産・リーフと1,200万円近くするポルシェ・タイカンが同じ土俵で比較されており、この点、私には意味がない。まあ仕方がないか。それでも今年版の特集号を待ち望んでいる。刊行されたら絶対に買うぞ。

数あるEVのビジネス本の中で異彩を放つ二冊を紹介したい。
一つ目は『EV(電気自動車)推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(加藤 康子・池田 直渡・岡崎 五朗、ワニブックス、2021)。
もう一つは『EVガラパゴス』(船瀬 俊介、ビジネス社、2022)。
「罠」の方はBEVオンリーには反対の立場。他方「ガラパゴス」の方はBEV全面切り替え推進派と意見は正反対。詐欺だ、デマだ、ミスリードだ、プロパガンダだ、陰謀だと過激な言葉が飛ぶ。「罠」も「ガラパゴス」のどちらもお人好しの日本人を欧・中・米が仕掛けた罠から救いたい。日本人が築き上げてきた世界一の技術をもって世界に挑めよとエールを送っている点では同じ。但し、アプローチは真逆である。「こっちは好き」「あっちの話など聞きたくない」と好みが別れるところであろう。でもどちらもファクトと一般論的な展望だけでなく著者の強い主張に溢れているから他の本よりも断然に面白い。職場では「ミスター事なかれ主義」の名を欲しいままにしていた私は「罠」と「ガラパゴス」の両方に感化され益々どっち付かず。特に「ガラパゴス」に対しては、そんなに悪意に満ちた言葉遣いでなくても良かろうと思う反面、この本の著者は30年も前に『近未来車EV戦略 電気自動車(エレクトリック・ビークル)が地球を救う』(三一書房、1993)を著していて早くから次世代EV車で世界をリードする必要性を懸命に説いていたことを知っているだけに同情もある。

私もこの本を持っていた。2000年頃に神田神保町書泉グランデさんで購入したものだろう。20年ぶりにこの本を開いて驚いた。同書の表紙を飾る「IZA(アイゼットエー)」は当時の環境庁・国立環境研究所、東京電力、東京R&Dが共同開発した次世代EV車。Eセグメント級のボディサイズを持つ4人乗りの2ドアクーペである。性能が凄い。40km/hという定速条件であるならばワンチャージの航続距離は548km。100km/hでも270kmを達成。これならば都心部で暖房をガンガン効かせながら手荒く使ったとしても100km~150km、初代リーフと同じくらいの航続距離は果たせたかも知れない。ニッケルカドミウム電池(鉛ではない!)を搭載し4個のインホイールモーターを駆動する。回生ブレーキもついている。PS、PB、PWは当たり前。SONYのオーディオとヒートポンプ式のエアコンまで装備されているから驚きだ。白い流麗なボディはCd値0.19(Wikipediaには0.198と書かれている)。その白くて流麗なボディはGMの同時代の電気自動車「インパクト」よりも長く低く伸びやかに映り、今見てもステータスシンボルと成り得るカッコ良さがある。価格付けと上手いマーケティングによっては、今のTeslaのポジションが取れていたかも知れないと想像する。デカプリオやシュワちゃんに乗って欲しかった。勿体ない話である。

またクルマだけでなく、当時の先進EV研究開発者達はモビリティのあり方についても現在起きている殆どのことを30年前から的確に予測していた。著者から見れば、世界のEV市場における今の日本のポジションを見て残念で仕方が無いのであろう。

「モノ」の本と言えば、『電気自動車 EVウォーズ』(永井 隆、日本経済新聞出版社、2018)は読み応えがあった。主にNECラミネート型リチウムイオン電池とそれを積む初代日産・リーフの開発ストーリーを中心とするビジネス書だ。所々小説仕立てで物語は展開してゆく。NECマンガンラミネート型電池の技術的ブレークスルーに挑み、日産は他車のプラットフォームを流用することなく一から車台を開発し電気自動車の本格的な量産ラインを軌道に載せた。これを読むとリーフは大きな困難を乗り越えて産み出されてきたクルマだということが良く判る。EVの本格的な量産車は世界初のことだから尚更だ。決して外からコンポーネンツを仕入れてきて組み立てられただけのクルマではないのである。改めてこの本を二回も読んだ。それから初代リーフにぐっと親近感が湧いてきた。

気になり出すともっと知りたくなる。初代リーフの開発ストーリーを描いた本を探してみたがどうやら発売されていないようである。『ニューカー速報』のようなものも初代リーフには見当たらない。仕方がないから『モーターファン・イラストレーテッド』のバックナンバーを古本屋で見つけては初代リーフの記事がかかれていないかをチェックしている。今のところ、vol. 37「電気自動車のテクノロジー」(2009年11月29日発行)とvol.55「電気自動車の基礎と日産リーフのテクノロジー」(2011年5月29日発行)が見つかった。

初代リーフには乗ったことがある。10年程前、沖縄県宮古島に遊びに行った時のこと。レンタカーの予約にモタモタしていたらリーフしか残っていなかった。半分は「面白そう」という期待。もう半分は「大丈夫かコレ?」という心配。電気式パーキングブレーキが付いていて「面倒くせぇなぁ、普通のでいいのになぁ」とぶつぶつ言っていたのを覚えているから借りたのは最初期型(24kw/hのZEO)だ。宮古島をぐるっと一周しても100kmくらいの道のりだからあまり心配する必要はないのだが、残り航続可能距離の表示が100kmを切るともうびくびく。島には真冬に訪れた。真冬でもヒーターを効かせるほど寒くはない。それなのに残りの航続距離に怯えながらのドライブ。「あーだめだこりゃ」と結論付けた。面白いけど自分にとっては実用性ゼロ。充電スタンド中心市街のイオンショッピングセンターの中にあった。風力発電で作られた電気を無料でチャージできた記憶がある。今はどうなっているのかな。

その後、初代リーフには30kw/hのバッテリー容量を持つ後期型(AZEO)が発売された。これを選べば少しは安心だろう。残念ながら私は集合住宅住まいで充電する時は全面的に急速充電スポットに頼らざるを得ない。仕事で間接的にEV向け二次電池に携わっているから急速充電はなるべくしない方がよいことは理解している。しかしこれについては仕方がない。意識してみると自分の住んでいる街にも結構な数の充電スポットがあるものだ。まず家からクルマで3分のエリアに二軒の日産ディーラーがある。15分圏内に充電スポット付きのファミリーマートが二軒あった。10分で行ける最寄りの道の駅にもある。そして何よりも週に2~3回通っている地場系スーパーの駐車場の片隅にもあったことを思い出した。食料品・日用品を買い、同居する本屋さんと100円ショップに立ち寄るだけでいつも20分~30分は軽くかかってしまう。その間を利用すれば時間を持て余すこともない。でも、その充電器が使われているのを一度も見たことがなく、設備更新のタイミングで撤去されてしまったらどうしよう。ちょっと心配である。

意識すればするほど初代リーフが愛しくなってきた。充電中のオーナーさんに突撃ルポし、実際に使ってみてどうなのかを伺っている。対応する側は「うぇ、ジジイ面倒くせぇ」と感じているに違いない。2014年に出た『間違えないでエコカー選び③ 日産リーフBMW i3』(福田 将宏監修、フォーイン編著、フォーイン)という本を買ってみようかと思う。何よりもリーフの偉かったところは、台数的にもボリュームゾーンで、優れた競合車がひしめく激戦区のCセグメントで勝負しようとしたところだ。この心意気には拍手を送ろうではないか。マイクロカー(日産もハイパーミニをやってたけれども)や官公庁向けの台数限定車やリース限定などでお茶を濁さずに100年進化し続けてきた内燃機関車と同じ土俵に立ち、無謀とも言える戦いに挑んだのである。異なる戦略を採ったトヨタの言い分も理解できるけれども、ありとあらゆるバリエーションの商品を持っているのだから正しいとか正しくないとか言わずに消費者の選択肢の一つとしてリーフに真っ向からぶつけてくる完全電気自動車があってもよかったと思う。昔のトヨタだったら日産が出してくるモデルの対抗馬を作っていただろう。この10年間の日産リーフの孤軍奮闘ぶりが惜しい。

プリウスが切り開いたトヨタHV車の世界累計販売台数1,500万台(2020年、トヨタ欧州部門による発表)の偉業は文句なく凄い。でも日産・リーフ世界累計販売台数50万台(2020年12月、日産発表)だって大したものだ。しかも火災事故ゼロ。数の上ではプリウス圧勝だが、だからと言ってリーフは負けでも失敗でもない。

プリウスについては開発秘話を描いた『ハイブリッド』(木野 瀧逸、文春新書・文藝春秋、2009)などの本が出ている。前述のとおりリーフにはそのような本が見当たらないのである。『EVガラパゴス』を読むと、リーフを評価しない、させない空気でもあったのかと勘繰ってしまう。だから初代リーフのファン(あんまりいないと思うけど)にはぜひとも『電気自動車 EVウォーズ』を手に取っていただきたい。

今後、各社からどんどんBEV車が発売されると初代リーフの値段はどうなっていくのであろうか。セグ欠けの極初期のモデルを除き、比較的高年式のものは100万円前後の値が付いている。最新モデルとくらべて航続距離が短いから売れずに安くなるのか、それとも「EV」というだけで重宝されて値段は高止まりするのか。もしくは外国人に買われてしまい我が国の中古車市場からリーフは姿を消してしまうのか。そうならない内に手頃な価格で程度の良いものを手に入れたい。

「今ごろ初代リーフかよ。2022だぞ」とツッコミが入ってもおかしくない話だが、まずはトミカのリーフ集めからスタート。ミニカー売り場が充実しているオフハウスさんに行ったら青の初代リーフが大量に売り捨てられていた。そんな中からコンディションばっちりの3台を救出。その後も白とか赤とか見かけると集めてしまう。トミカ「テコロジー」シリーズの黒もあるようだ。ライトが光るんだぜぇ。テーブルの上がビッグモーターの後ろの方みたいになってきた。こんなに集められてボクちゃん幸せ。いや待てバカヤローだ。よい子のみんな、これはそこらのブーブーじゃないんだからね。「やかましいぞ歯っ欠け。セグ欠けでも乗ってろ! 」アーリーアダプター様のご子息達は弁が立ちますこと。