付加価値のない自動車会

~副題 クルマだらけの間違いづくし~

公道最速はクライスラーMボディ 失うものは何もない 捨て身で行けー!

去年の夏の暑かった頃、BS放送ブルース・ウィルスの主演映画『16ブロック』(原題:16 Blocks、2006)を観た。「なんだ吹き替えか」などとタダ観の奴が文句を言ってはいけないブルース・ウィルスが乗っていたわけではないが、劇中度々2000年代のシボレー・インパラの覆面パトカーが登場する。おそらく日本人の誰も好きにならんであろう丸っこくてFFのカッコ悪いやつ。しかし、FFビッグセダン好きの私にはクールに映った。ねずみ色っていうのもいい。「Internet Movie Cars Database」という映画に登場するクルマのウェブサイトがアメリカにあり、アメリカ人のマニアの投稿によると2000年モデルらしい。アメリカ人を含めて殆どの人にはどーでもいい話なんだろう。こういうクルマに出会えるから、たまには新し目の映画も観てみるものだ。

こんなの並行輸入して乗るわけにもいかないから代用車として雰囲気の近い日本車にはどんなものがあるのかな?などと輪をかけてどーでもいいことを考えていたところ、本屋さんで『昭和40年男』の2020年10月号を見つけた。特集は「俺たちのハートを撃ち抜いた刑事(デカ)とクルマ」。これは買うしかない。巻頭特集はもちろん『西部警察』シリーズだ。小学生から中学生にかけて欠かさず観ていた。ところが私は、劇用車の代表作とも言える「マシンX」や「スーパーZ」などにはあまり興味が無く、どちらかと言えば刑事さんが犯行現場に乗り付けるだけの何の変哲もないセダンに心を奪われた。

スタさんの"赤い稲妻”はもちろん好き。マスキー法以降のなんちゃってマッスルだから。我が家にはJOHNNY LIGHTNINGのミニカーも飾ってある。だが時々出てくるハッチのくたびれたセダンもなかなかいい。前述のウェブサイトによるとハッチのクルマは1973年型のフォード・ギャラクシー500なんだって。別にカーチェイスをしなくてもいいのだ。この雑誌ありがたいことに、かなりマイナーな刑事ものドラマまで網羅しているだけでなく、A10オースターとか、810ブルとかC32ローレルなどのパッとしない劇用車も取り上げてくれているから嬉しくなる。

 

 

この雑誌に触発されて昔買ったポリスカーの本を久しぶりに開けてみた。『DODGE, PLYMOUTH, CHRYSLER POLICE CARS 1979-1994 』(Edwin J. Sanow and John L. Bellah with Calen Covier、Motorbooks International Publishers & Wholesalers、1996)という洋書。これはいつどこで買ったものだろう。裏表紙に店のシールが貼ってあった。アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスの近郊にある「MALL OF AMERICA」というショッピングモールの中の本屋さんで見つけたらしい。1996年だったか1997年だったか、世界最大級(当時)のショッピングモールをこの目で見ようとひとり旅に出掛けた。ちょっと大げさかも知れないが幕張のイオンモールを四つ繋ぎ合わせて円形にしたような巨大商業施設だった。専門店街のコンコースに取り囲まれるように真ん中には遊園地、その地下には水族館が入っていた。冬は極寒になる地域だからドーム屋根が付いた全天候型。ミネアポリスダウンタウンもぶらついてみた。黒人と白人のカップルを結構見かけた記憶があり、なかなかリベラルな雰囲気の街だなという印象を抱いていたのだが、昨年の5月に白人のお巡りさんをきっかけとする反人種差別デモが起きたことに驚いた。日々暮らす人の現実を知り残念に思う。

私はポリスカーマニアではない。ではなぜこの本を買ったかと言うと、大好きな「Mボディ」の写真がふんだんに掲載されているから。Mボディを様々な角度から拝むことができる。「Mボディ」とはクライスラー社の「Mプラットフォーム」のことである。1976年モデルとして登場したダッジ・アスペン/プリムス・ヴォラーレの「Fボディ」を流用して作られた(オッサンなので「プリマス」じゃなくて「プリムス」と呼ばせて)。それが証拠にどちらもホイールベースは112.7インチ(2,863 mm)でフロントサスペンションは横置きトーションバー、リアはリーフリジッドである。クライスラー・ルバロン/ ダッジ・ディプロマットの1977年モデルからMプラットフォームは展開された。全長5.2 m級で当時のインターミディエイトサイズの高級車だった。4ドアのMボディは、その後ずっと112.7インチのホイールベースを保っていたが、2ドア版については1980年から1982年までの間、ショートホイールベース化されたモデルが販売された。私はこの頃のカクカクボディのラグジュリーコンパクトクーペが好きだ。マーキュリー・モナーク/フォード・グラナダの2ドア、マーキュリー・ゼファー/フォード・フェアモントの2ドアなどなど。

クライスラー・ルバロンとダッジ・ディプロマット/プリムス・グランフューリーはどちらも角形4灯式ヘッドライトを採用している。但し、スモールランプ& ウインカーの配置が両者(車)では異なる。ダッジとプリムスではヘッドライトの下にスモールランプ& ウインカーが「目の隈」のように置かれている。一方のクライスラーではスモールランプ& ウインカーがヘッドライトの上に「眉毛」のように置かれている。よりエレガントに映るのはクライスラーの方。30年前、私はアメリカの住宅地で'80-'82のルバロン2ドアクーペを見かけた。夕暮れ時にスモールランプだけを灯して走る姿がものすごくカッコよく、今でもその光景が目に浮かんでくる。優美なクライスラーに対して'80年代~'90年代のアクション映画の中で木っ端微塵に吹っ飛ばされているのはダッジとプリムス。

 

話をポリスカーに戻そう。Mボディがアメリカの警察車両として使われ始めたのは1981年モデルから。前年までのダッジ・アスペン/プリムス・ヴォラーレの後継機種となり、主力のRボディ(全長5.5 m級)のクライスラー・ニューポート/ダッジセントレジスと併売された。但し、Rボディにしても前年まで設定されていたスモールブロック360 cid(5.9リッター)はカタログから落とされ、318 cid(5.2リッター)が最大排気量となった。クライスラー・ルバロンとダッジ・ディプロマットは「A38」ポリスパッケージと呼ばれた。318 cid(5.2リッター)、4バレルキャブ仕様はエンジンコード「E48」、最高出力165 hp(ネット値)で、これにロックアップコンバーター付きのTorque Flite 727(クロスレシオで容量の大きい"ビッグブロック")3速ATが組み合わされた。2バレルキャブ仕様は「E45」と呼ばれ最高出力は130 hp(ネット値)。これにワイドレシオの3速ATが備わる。

4バレルの「E48」は360 cidのシリンダーヘッドに換装され、大径バルブと大径シングルエキゾーストパイプが奢られただけでなく以下のモディファイが施されていた。エンジニアさん、チューナーさん私の和訳がヘンだったらごめんなさい。

クランクシャフトとオイルサンプとの間にオイル・ウィンデージ・トレイを設置(クランクシャフトの回転に起因するオイルの撹拌ロスを低減することが狙い、と世良耕太さんのブログに書いてあった)、ピストンリングのトップリングのクロムめっき処理、最適硬度のノジュラー鋳鉄製クランクシャフト、デトネーションセンサー、ダブルローラータイミングチェーン、オイルフィラーキャップの配置替えによる整備性向上、鍛造コンロッド、オイルリングのクロムめっき処理による耐久性向上、エキゾーストマニホールドの耐久性向上、バルブスプリングの耐久性向上、ロッカーアームの強度増大、シリンダーヘッドカバーガスケットの耐熱性向上、バルブシールの耐熱性向上、カムシャフトのリューブライト処理、ナイモニック排気バルブ、シリンダーヘッドのコリーン処理、ピストンクリアランスの見直し、シルクロム1による吸気バルブの耐熱性向上、ウォーターポンプのベアリングのサイズアップ。

なんだかポリスカーのエンジンの開発者達は楽しそう。アメリカンポリスカーのスペックについて興味のある人は『アメリカンポリスカー大図鑑』(矢吹明紀、ライトニング編集部、2003)を手に入れよう。追跡用ポリスカーの歴史が1930年代から展開されているし、歴代最大排気量、歴代最大出力、歴代最高速を誇った、それぞれのポリスカーが紹介されている。

1982年モデルは前年モデルの完全なキャリーオーバー。Rボディは前年モデルをもって終了し、Mボディが主力かつ最大サイズのポリスカーとなる。クライスラーブランドのポリスカー(ルバロン)も廃止され、ダッジ・ディプロマットとプリムス・グランフューリー2車種のラインナップが設定された。この年は「Kカー」が話題の中心となった。市販車として二年目のダッジ・エアリーズK/プリムス・リライアントKがポリスパッケージとして登場した。

1983年も前年型と変わらず。但し例外はチルトステアリングコラムが装備されたこと。この年限りで「Slant 6」がカタログ落ちした。Kカーは「ポリスカー/パトロールカー」、Mボディは「Pursuit(追跡車)」と呼ばれるようになる。また、ダッジ・ディプロマットには「GL41」、プリムス・グランフューリーには「BL41」というポリスパッケージ名が新たに与えられた。この年、生産拠点がカナダのオンタリオ州ウィンザーからアメリカ・ミズーリ州セントルイス近郊のフェントンに移された。

1984年にはエンジンコード名が変更され、4バレルの「E48」は「ELE」、2バレルの「E45」は「ELD」となった。4バレル仕様のトランスミッションはビッグブロックの「727」から「A999」と呼ばれるスモールブロックに換装された。これはTorque Flite 904(スモールブロック)の改良型。ワイドレシオで加速力が向上した。0→60マイル(約96.6 km/h)、0→100マイル(約160 km/h)までの到達時間、トップスピード、1/4マイル(ゼロヨン)タイムのいずれもが向上した。それでいて燃費の良い高圧縮比のパワートレインだった。『DODGE, PLYMOUTH, CHRYSLER POLICE CARS 1979-1994 』が警察関係者に対し独自に行ったアンケートによれば、1984型の4バレル仕様が「ベスト・Mボディ・ポリスカー」ということらしい。2バレルの方はファイナルギアレシオがハイギアード化されてしまい、ミシガン州警察のロードテストではゼロヨンで4気筒156 cid(約2.6リッター)のプリムス・リライアントKよりも遅かった!!!そうだ。

 1985年、4バレルのキャブレターがCarter ThermoQuadからRochester Quadra Jetに変更された。Rochesterは当時GMの一部門だったのでMOPARファンにとっては驚きのニュースだ。しかし、このキャブレターは元々Carter社が設計したらしい。4バレルの基本仕様には変更無く、360 cid用のヘッドが使われ続け、キャブレターの変更によって10 hpアップの175 hp(ネット値)となった。2バレルの方は、高圧縮比化され、燃焼室形状が見直された。また、動弁機構にはローラータペットが奢られた。新しい"急速燃焼"エンジンは10 hpアップし140 hp(ネット値)となった。また、Mボディポリスカーにグッドイヤーの「Eagle GT」タイヤが採用された。

1986年、ついにEFIが!と思ったら、これはKカーに。小学生の頃、和製スタハチこと「『噂の刑事トミーとマツ』が今晩8時からスタート!」と朝刊の全面広告だったか全5段広告で見たような気がする。うる覚えだが、そこにはアメ車の4ドアセダンが写っていたと思う。ワクワクして放送時間を待った。お風呂も早めに入った。いよいよそこに現れたのはアメ車ではなく国産車だった(最近知ったことだがギャランΣ)。この時のガックシ感と同じである。4バレルは前年そのままの仕様で、名前だけ「Interceptor」(今更もって訳すと「迎撃機」かな?)というカッコいい響きに。なぜか圧縮比が下げられたが、点火タイミングの調整でパワーを維持した。またベーパーロック対策も施された。

1987年、Kカーは「パトロール」、Mボディの2バレルは「Pursuit(追跡車)」、同4バレルは「Interceptor(迎撃機)」という呼称となる。この年の変更点はエキゾーストパイプがステンレス製になったこと。径は同じで耐久性を向上させることが狙い。2バレルの方は最終減速比が2.94から2.24へハイギヤード化された。この年、クライスラーはAmerican Motors Corporationを買収。ウイスコンシン州のケノーシャにあるAMCの生産拠点を手に入れた。当時の日本円にしておよそ2億円をかけて改修し、Mボディの生産をここに移した。

1988年、クライスラー社のポリスパッケージのラインナップはダッジ・ディプロマットとプリムス・グランフューリーの2車種のみという寂しい展開。最終年にもかかわらず、どういうわけか運転席エアバッグが標準装備された。

 

1980年代半ばになると、アメリカの省エネムードは弱まり、ハイウェイパトロールの任務にあたる警官達からもっとパワーのあるエンジンが熱望された。'81-'83モデルのクライスラー・インペリアルに積まれていた318 cid EFIエンジンや、果ては360 cidの復活まで望む声が出てきた。318と360とはエンジンマウントが同じ、トランスミッションも同じで直ぐに換装できるらしい。その他、4ATも期待されたが、結局のところ開発投資を正当化するには至らずに数点を除いて同じ仕様で作られ続けた。ダッジ・オムニ/プリムス・ホライゾンでさえも'88モデルからインジェクションに切り替えられている中、Mボディはクライスラー全体で見ても唯一残ったキャブ車だった。FR、V8、3AT、リーフリジッドリヤサスのローテクカーは1989年モデルまで作られた(ポリスカーは1988モデルまで)。

 

'80年代を通じてダッジ・ディプロマットとプリムス・グランフューリーの生産台数は3万台~5万台後半くらい。6:4の比率でダッジの方が多く作られた。Mボディのポリスカーの販売台数で見るとどの年も2万台前後、最終年はおよそ1万台だった。タクシー向けにも多くが生産されたのであろう。アメリカの水道局や市庁舎の前などでもよく見かけた覚えがある。但しフリートユーザーオンリーではなくオーナーカーとして使われている場面も記憶に残っている。クルマに対して保守的なテイストを持つ年配層にはよく売れたようだ。なので決してレアものではない。Mボディの極めつけはクライスラー・ニューヨーカー/クライスラー・ニューヨーカー・フィフスアベニュー/クライスラー・フィフスアベニュー(年式によって呼び名が異なる)。内装はフカフカのシート、外観はCピラー部分が取って付けたようなランドゥルーフになっている。Allpar.comというアメリカのサイトによると、ダッジ・アスペンのフロントドアとフロントウインドシールドがそのまま付くというからキャディラック・シマロンも逃げ出すようなとんでもないバッジエンジニアリング車だ。’82モデルの生産台数は約5万台、'83 と'84がそれぞれ8万台前後、’85と'86がなんと10万台を超えて11万台に迫る勢い。'87は7万台、'88は4万台強、'89の最終モデルに至っても2万5千台以上作られた。オバケか。

 

ネットでMボディの情報を探していたら、"Are you a cop - The MOPAR everyone loved to abuse?"というサイトを見つけた。映画の中で思う存分破壊されてしまうクルマたちの代表格のようだ。『ビバリーヒルズコップ2』(原題:Beverly Hills Cop Ⅱ、1987)やコメディ映画『天国に行けないパパ』(原題:Short Time、1990)などのカーチェイスシーンで無惨な姿を晒している。もうとっくに退役しているだろうから、今はどんなクルマが映画の中でボッコボコにされているんだろうと興味が湧いてきた。ブルース・ウィルスがらみで『ダイハード3』(原題:Die Hard with a Vengeance、1995)と『ダイハード4.0』(原題:Live Free or Die Hard、2007)を借りてみた。『ダイハード3』では真四角の'87年型シボレー・カプリスのタクシーが車道も歩道も区別無くニューヨークの街中を爆走する。『ダイハード4.0』では2000年型のフォード・クラウン・ビクトリアが殺し屋のヘリコプターに追われ、最後は逆にヘリコプターめがけて突進し大破する。そもそもカーチェイス映画ではないが、2018年の『THE LAW 刑事の掟』(原題:Trauma Center) では、ブルース・ウィルスはおそらく1997-2003のマーキュリー・グランド・マーキス(と思ったら、これはフォード・クラウン・ビクトリアをマーキュリー仕立てにしているとのこと)の覆面パトカーに乗っている。銃弾を浴びるシーンがあるが、ボディに穴が開いたり窓ガラスが割れる程度。いずれにしても、Mボディのように走りながらフロントフェンダーがそっくりそのまま吹っ飛んでしまうような感じではなかった。映画の制作費を抑えたいということだけならば、なにもMボディにこだわる必要はない。'87-'91のポンティアック・ボンネビル、'88-'97のオールズモビル・カトラス・シュプリーム、'85-'95のフォード・トーラスなんかでもそこそこ車格もあるし良いのではないかと考えてしまう。同じクライスラーならば'93-2004のダッジ・イントレピッドではダメなのか。一般ユーザーからもポリスパッケージ(後期型)としても散々な評判だった。このクルマならば思いっきり破壊してもバチは当たらんだろう。いや、でもやはりエアロダイナミクスを採り入れたクルマでは気分が出ないのかな。

アメ車のデザインは1960年代初頭から角張り始めて('55-'57 トライシェビーも「角っぽい」と言えばそうなのかも)、いつ頃から丸味を帯びてくるようになったのだろうか。長田滋さんという方の『日本車躍進の軌跡 自動車王国アメリカにおけるクルマの潮流』(三樹書房、2006)にはアメリカ車各メーカーのスタイリング組織と活動の年表が載っている。それによると、フォードがドン・コプカ(Donald Ferris Kopka)というチーフデザイナーの下、先鞭を付けたようだ。CAFE(Corporate Average Fuel Efficiency = 企業別平均燃費基準)対策として燃費を向上させるためにエアロダイナミクスデザインを採り入れた。Probeというコンセプトカー(市販されたものとは全然違う)を経て、1983年モデルのフォード・サンダーバード/マーキュリー・クーガーに「ジェリービーンルック」(自分達でそう名付けたのか、外部から言われたのか不明)が反映された。前年のカクカクボディからの大変身。思いきったスタイルチェンジだったが、これはヒット作となった。その後、'84 マーキュリー・トパーズ/フォード・テンポと続き、'86 マーキュリー・セイブル/フォード・トーラスで丸っこいデザインは完全に市民権を得た。

またまたブルース・ウィルスがらみで2020年公開の『ナイト・サバイバー』(原題:Survive the Night)も借りてみた。凶悪犯達が乗っていたのは、なんと1977年型のシボレー・インパラのセダン(Internet Movie Cars Databaseによる)。流石にアメリカ人でも今どきこんなのに乗っているとは思えない。何の意図があって四角いセダンを「配役」したのだろうか。丸っこくて「地球と調和してますよ」というようなイメージのクルマなんて乗っていてもアウトローにはならず、登場人物の乱暴なキャラクターを決定づけるにはちと弱い。スマートとは正反対に位置付ける人間像を演出しなければならないのだ。しかしながら、ただそれだけのために四角いセダンである必要があるだろうか。大きくて四角いだけだったらピックアップトラックもしくはSUVを登場させればいい。

Mボディにしても、'77-'85のインパラ/'77-'90のカプリスにしても、'80-'91のクラウン・ビクトリアにしても、'80年代に入ると既に時代にそぐわないクルマだった。根強く売れ続けたクルマではあったが、一般ユーザーに限定すれば古い価値観をもった年配層しか買わなかったであろう。どうあがいても未来の見えない、忘却の彼方に沈んでいくべき”dead end”カーではなかったか。『ナイト・サバイバー』にはロードムービー的な要素がある。犯人の兄弟はメキシコへ逃亡することを夢見る。しかし、事はそう上手く進んでゆかない。先のない行き詰まった状況はまさに四角いインパラ。このクルマにそれが投影されているのだ、と私は解釈している。

アクション映画にしばしば登場する「はみ出し刑事(デカ)」達もまた自分の正義を貫き信念のままに生きる反対側のアウトローだ。時代錯誤も甚だしい現代に生き残った最後のカウボーイ達。こっち側も、"終わっている"四角いセダンで犯人を追いかけ回さなきゃらない。

私は新しいテクノロジーやトレンディなものに全く興味が湧かない人間。これでいいわけはないとわかっちゃいるけど、どうしても新しいものに食指が動かない。こんな世の中不適応のダメ人間だから、Mボディのような5.2リッターからようやく百数十馬力を絞り出している体たらくなクルマに共感してしまうのだろう。

けれども若い頃は違った。ドン・ジョンソンに憧れて体を鍛え、パステルカラーのズボンとシャツ、素足に白いドリフシューズ(靴流通センターで880円くらいだったから)を履いて街を闊歩した。あれから30年、ドン・ジョンソンというよりはジョン万次郎でくだ巻き。カリフォルニアデイトナスパイダーはもちろん買えない。ヴィヴィオ T-topも50万円くらいするのか。こっちも買えない。