付加価値のない自動車会

~副題 クルマだらけの間違いづくし~

トウキョウ・モーターショー・カー・オブ・ザ・イヤーズ・オブ・ザ・セブンティーズ(長過ぎ)

最近面白いクルマ雑誌(ムック本)が発売されている。それは『 K MAGAZINE』『 E MAGAZINE』『 V MAGAZINE』の3冊だ。それぞれ軽自動車、EV、ヴィンテージカーがテーマになっている。どの出版社から発売されているのか気になって見たところ、それぞれが別の会社から出ていた。3冊を同じフォーマットでシリーズ化して見せているのがCCCカーライフラボという会社である。とても面白い企画だと思う。『K』と『E』を毎号買っている。『V』の創刊号の表紙に往年の名車が載っていたため興味が湧かなかった。2号目の表紙を飾るのはマツダRX500で、巻頭特集は「世界が誇る名ヴィンテージ こんな日本車を知っているか?」と題してマツダRX500童夢P-2、日産MID4-Ⅱ を取り上げていた。これも未だ買っていない。

それとは別に、二玄社さんの『別冊CG 自動車アーカイブ』シリーズを買い集めていたら、いつの間にか『自動車アーカイブEX 日本のショーカー』も揃えていた。全部で4刊発行されている(2006、2007)。イタリアンスーパーカーにも負けないくらい美しいスタイルを持ったマツダRX500トヨタEX-7、日産126X、いすゞ・ベレットMX1600などが気になり、久しぶりに『 ② 1970~1979 東京モーターショー』を手に取った。するとそこはカッコいいクルマの宝庫だった。RX500やEX-7だけじゃない。ショーの目玉からは外れていても、すんごくカッコいいクルマがこんなにも沢山あったのかと改めて驚かされた。大勢の方に知ってもらいたいのである。

なお、いつもながら写真も無く、文字だらけの殺風景なページで申し訳ない。日本各地の「ふるさと文庫」のようなブログを目指してるとこうなっちゃんだなぁ。コンセプトが良くないのか。ということで、紹介する各車にはモーターショーの回、開催年、そして車名をセットにして掲載した。纏めてコピペしてネットで調べてみてね。車種だけだと全然違うクルマが出てきてしまうかも。

 

1970年 第17回 東京モーターショー スバル バギー エル ドミンゴ

Subarris Kustoms

スバル・サンバーのシャシーFRPのボディを被せたサンドバギー。同年4月、ダイハツからフェロー・バギーが発売されているので当時の時流に乗ったようだ。フェロー・バギーと異なるのは、こちらはまるで遊園地のレール・クラシックカーのような出で立ちであったということ。2つのバリエーションが展示された。実車のオーナーさんやマニアの方が見たら「全然違うだろ」と怒るかもしれないが、MG-TDっぽい感じの「スポーツ」とフォード・モデルTがカスタマイズされたような「クラシック」がある。特に「クラシック」の方が面白い。黒ベースにラメが入ったような塗装のボディカラー。クロームパーツは金メッキ。ウインドウポストの両脇には真鍮製のランタンまで付けられている。全体的なプロポーションはジョージ・バリスが活躍していた頃のearly hot rod のショーカー風味である。

 

1970年 第17回 東京モーターショー スズキ フロンテ71 SSSR

コルシカ島のコーナーから横っ飛びして出てきそうな軽

ドレスアップパーツを沢山付けてやる気満々のフロンテ。縦に桟の入ったライトカバーは三菱コルト・ギャランGS風。フロントバンパーの下には左右に分かれたフロントフィンが、リアのエンジンフード上にはウイングが奢られている。バンパーにはラバーのカバー、フロントフードにはストラップ、リアウインドウにはキックルーバー(本の解説は「ベネシャンブラインド」= venetian blindと呼んでいる)が付く。それらのパーツは全て黒で、オレンジボディのアクセントとなりスポーツムードを高めている。どこまで頭文字を並べんだというくらいの名前の末尾に付く「R」 はラジアルとのこと。サービスエリアで見かけたら、モータリーゼーション幕開けのノリで「おお!おたくもラジアルですか!」なんてお互いに声を掛け合ってみよう。

 

 1971年 第18回 東京モーターショー マツダRX510

オロチが恐縮する大先輩

サバンナをベースにカスタマイズされたショーカー。全体のプロポーションはサバンナのそれと分かりつつ、先ず誰もが注目するのは延長されたフロントノーズ。桟の向きは異なるが1976-1977年型オールズモビル・カトラス442のようなグリルに、アルファロメオモントリオールのようなセミリトラクタブルライト。半開きの目が不気味な迫力を醸し出す。リアはどちらかと言えばファミリア・プレスト・ロータリークーペ風の丸目4灯テール。アイアンバンパーが無い分スッキリしている。パテ埋め風オーバーフェンダーが覆うのは、ブリヂストンのホワイトレター。写真に目を凝らすと250/50VR13と書かれているようだ。この時代にもうこんな扁平率の低いストリートタイヤがあったとは驚きだ。右ハンドルなのに当時許されていなかったドアミラー(砲弾型)が採用されている。「オオトカゲ」をイメージした真緑のボディはなかなかグロテスク。けれども妖艶な雰囲気をぷんぷん匂わす色気のあるクルマだ。

 

 1972年 第19回 東京モーターショー 三菱 ギャランGTO R73-X

ボンドに乗せたいヨーロピアンマッスルカー

GTO MRをベースに、先のマツダRX510 同様ノーズが延長され彫りの深い顔付きに変わっている。ボンネット上の左側にはオフセットされたパワーバルジ。ダックテール後端に付けられたリアスポイラーは可動式なんだとか。下に降りていくと角形デュアルのテールパイプが顔を除かせている。足元を見ると、ホワイトレターのタイヤがワイヤースポークホイールに履かされていて、それを叩き出し風なのかパテ埋め風なのかわからないが結構大きく張り出したオーバーフェンダーが覆っている。このクルマにはリアビューミラーは備わっていない。実は『日本のショーカー』には前方斜め上から撮影された写真と、後方から撮られた写真しか載っておらず、どんなお顔になったのか窺うことができない。ネットで調べてみたら前方からの写真も沢山あった。今でも三菱自動車が保管していて時々イベントで披露されるようだ。ギャランオーナーさん達の間では伝説的なモデルなのかも知れない。一見するとアメリカンマッスル色を濃くしたものかと思っていたところ、前から見るとヨーロッパ調の雰囲気で市販のGTOとは全く趣が異なる。'70年代のアストンマーチンDBSやV8、スイスのモンテヴェルディのようなヨーロッパのスポーツカーを思い起こしてしまった。

 

1972年 第19回 東京モーターショー スバル レオーネ4WD スポーツアバウト

私をスキーに連れてってあげるまでに15年もかかってしまった

同じ年に発売された「4WD エステートバン」とは全然違う雰囲気である。同じ緑でも市販車は深緑、こちらは抹茶色だ。鉄製に見えるバンパーも同じく抹茶色にペイントされている。顔はクーペ1400の角形2灯。現代のものとはちょっと形が異なるけれどもルーフレールが備わる。タイヤはホワイトレター。ヤッケを着た東北電力のおじさん達のことを全く考えていないシティボーイに生まれ変わってしまった。ネーミングだってそのまま行けるぞ。

 

1973年 第20回 東京モーターショー 三菱 ランサー レーブ

週末は俺のクルーザーで気が置けない仲間と

「Rêve」と書く。美容室でこういう名前があったような気がする。フランス語で「夢」の意味なんだとか。このクルマはランサーのバン。ランサーのバンで何を夢見ろって言うのか。屋根を見るとちょうど後部座席の位置くらいから一段高くなっている。屋根が一段高くなる例は他にも幾つかあるだろう。しかしこの屋根はひと味もふた味も違う。建て増しされた部分のデザインがモーターボート、おっと失礼、私がこう呼ぶと安っぽくなるのでクルーザーとしよう。そのキャビンを模したデザインとなっているのである。クルマの屋根にモーターボートの乗るところがくっ付いちゃった感じ。高さは約15cm。突起の頭上部分はキャンバスのオープントップとなっている。次に室内に目を向ける。リヤシートを倒すと完全フラットの就寝スペースが出来上がる。荷室部分のサイドウインドウにはカーテンが、リヤハッチガラスの内側にはブラインドが備わる。マイルドにアゲた車高にゴツゴツしたオフロードタイヤはホワイトレターで、これをバナナスポークのブラックホイールに履く。ミラーは砲弾型。わざわざGSRのエンジンと5MTに載せ換えられている。10年くらい前に八重洲出版さんから『 STREET VAN & WAGON 国産箱的荷室付旧型車雑誌』というムック本が4~5冊刊行された。Vol. 2にこのクルマが特集されている。はっきりとは書かれていないが、おそらく同社の『 driver』誌が当時取材した記事がベースとなっており、カラーページで様々な角度から見ることができる。トヨタさん、日産さん、プロボックス/サクシードやNV150ADでこういうのを作ってくれないかなぁ。「道具」に少しだけ遊びゴコロを加えたやつが出て欲しい。過剰な提案は要りません。価格を抑えてください。「プアマンズ・クルーザー」で悪かったな。こっちにはライフスタイルはなんてものは無い。あるのは現実の「ライフ」だけなんだから。

 

1973年 第20回 東京モーターショー スバル レオーネ ハードトップ クラシック カスタム

イタリアンマフィアの手下が降りてきそうなクルマ

まったく自分をアメリカ車とでも勘違いしちゃったのだろうか。どうしちゃったの?と言いたいくらいバタ臭いカッコよさである。「The」を付けたくなる真四角のメッキフロントグリルに、5マイルバンパーとまではいかないが厚みのあるフロントバンパーが前にせり出す。ピカピカクロームのプレーンなホイールキャップ、右ハンドルなのにメッキのドアミラーが付いている。しかし、このクルマの肝の部分はフォーマルなブラックボディに黒のレザートップだろう。真っ白な内装を見て思ったのは1977に追加投入された「グランダム」のこと。カタログには「ホワイティーカラーリングインテリア」と書かれていた。今まで「グランダム」がレオーネの中で一番良いと思っていたが、このブラックのハードトップも相当いいぞ。

 

1975年 第21回 東京モーターショー トヨタ マルチパーパス ワゴンMP-1

 FFさえあれば、あんたが一等賞だったはず

これも凄いクルマだ。まるで現代のミニバンそのもののプロポーションに腰を抜かすことだろう。パールホワイトに包まれた大柄なボディはクラウンのペリメーターフレームに載せられているとのこと。現代のミニバンと比較するとリアのオーバーハングが長く見える。初代セリカXX風の顔がとってもスポーティー。これが当時のトヨタ・スポーティー顔のデザインアイデンティティだったのかも知れない。エンケイディッシュ風のホイールにドアミラー、フロントウインドウが小ぶりなラップアラウンドウになっているのも見過ごせない。左側のみにスライドドアが付く。ありがたいことにトヨタの公式サイトに「東京モーターショーに出展したトヨタ車の歴史」というページが設けられており、このクルマを様々な角度から拝むことができる。完成度の高さに驚かされるはずだ。しかし当時の日本人は「低く」「速く」「パーソナル」なクルマを求めていたように思える。こういうクルマが広く世間に評価されるまでそれから20年もかかってしまった。

 

1975年 第21回 東京モーターショー スバル レオーネ SEEC-T 1600 ツインキャブスポーツ

もしも『トランザム7000』の舞台がニューイングランド地方だったら

この年から東京モーターショーは2年毎の開催となった。前回ブラックのレオーネにやられてしまったが、今回のパールホワイトもカッコ良過ぎる。フロントグリルにはクリアーのレーシングジャケットが付き、バンパー下には結構大きなエアダムが延ばされている。ネットで探しても真横からの写真が見つからないため、よくわからないがカンパニョーロ風のアルミホイールがホワイトレタータイヤと組み合わされている。ミラーは砲弾型のドアミラー。このクルマのデザイン上のウリはTバールーフサリー・フィールドを横に乗せたバート・レイノルズが横を向いてニコッとしそうだ。ベアー(トラッカーのCB無線用語で「ハイウェイパトロール」の意味)に追われても山道に逃げ込めばこっちの勝ち。相手がV8ポリスパッケージだろうと「バカヤロー、こっちはアルペンラリーで散々鍛えてんだよ」とばかりに逃げ切ってみせるだろう。

 

1977年 第22回 東京モーターショー トヨタ 空港リムジン

和製600プルマン

5代目MS80系クラウンワゴンのストレッチ版。プロポーションがすごくナチュラルに見えるのは6枚ドアだからだろうか。3人がけ3列シートの9人乗りである。リアのオーバーハングが長いから荷室容量もたっぷり。全幅が1,690mmなので長く見えるが実際には5,560mm。普段使いも何とかできそうなサイズ。グリルは営業車と同じ丸目の4灯。しかし、バンパーにはロイヤルサルーンにしか付かないオーバーライダー(鰹節)があった。奇をてらったところがなく、直ぐにでも市販できそうな感じだ。特装車として本当に発売されていたならば、今頃数台のサバイバーを目にすることができただろう。

 

1977年 第22回 東京モーターショー 三菱ギャラン Λ Tトップ

これに乗ればチャーリーズエンジェル達とお近づきになれるかも

こんなカッコいいクルマがなぜかあまりネット検索できないのが不思議である。前年11月に発売された市販車がベースで、それ程いじられていない。ウエストラインまではワインレッドに見える深い赤。ピラー部から上は真っ白。よく解説に「ロールバー風に見えるクォーターピラーが...」と書かれているので、『モーターファン別冊 日本の傑作車シリーズ第13弾 初代ギャランΣ/Λのすべて』(三栄書房、2018)を読み返してみたら、本当にデザイナーがロールバーに見えるよう意図していたことがわかった。ダッジ・チャレンジャー/プリムス・サッポロとして販売されることも決まっていたそうだ。ショーカーの目玉はTトップだからサイドウインドウを降ろすと余計に「ロールバー感」が増す。白いサイドプロテクションモール、一部がボディと同色に塗られたフィン状のアルミホイールにホワイトレタータイヤ、白い内装と、これだけなのに物凄く色気のあるスペシャリティカーに仕上がってしまうのは元々のデザインが素晴らしいから。これは市販されなかった。しかし残念がるのはまだ早い。1979年に追加された2600がある。純正カラーが既にツートーン。Tバーこそないものの、ロールバー風のクォーターピラーガーニッシュがカッコいい。ここにはウインカーまで付いている。なんというお洒落さんだ。

 

1979年 第23回 東京モーターショー トヨタ ファミリーワゴン

走れ!グンゼのプラモ!

見た目は普通のライトエース。ではなぜこれを取り上げたかというとカラースキームにやられたから。グンゼ産業から出ていた「VANシリーズ」のキャラバンやハイエースのようだ。'70年代のバニングなどで見かけた「黄・橙・黒」のレーシングストライプが走る。そもそも「黄・赤・黒」「黄・赤・橙」などのストライプカラーはどこから来たのだろうか。そういえばロングビーチグランプリ(正式には「冠スポンサー名 + Grand Prix of Long Beach」)の前座としてやっていたセリカ/スープラワンメイクレースのマシンカラーもこんな色使いだったと思う。アメリカ人がツーリングカーに施す好みの色なのかな。バンパー下には黄色いフォグランプ、ルーフ後方にはルーフエンドスポイラーが付いている。このファミリーワゴンも前述の『 STREET VAN & WAGON』のVol. 4に当時の『driver』誌のインプレッション記事が掲載されているので外観も内装もじっくりと観察できる。この本の別ページには、同年のモーターショーに日産から出品されていたスカイライン(ジャパン)のワゴンの写真もある。こちらも似た色使いのカラーストライプが施されている。両車ともにカラーストライプ以外にはアルミホイール(純正サイズ)を履いている程度のモディファイに留まっている。だからこそ白やシルバーの商用バンを手軽に、そして安価にカスタムする際の手本として大いに参考になるのである。

 

この他にも、ホールデンWB顔(余計にわからないか)のトヨタ、顔がプリムス・ロードランナー・スーパーバードでリアがポルシェ924風のトヨタロータス風というかポルシェ914風というのかわからないがライトウェイトのミッドシップ日産、シトロエントヨタアストンマーチン・ラゴンダ風の日産など、この10年間に出品されたショーカーの中に紹介したいものがまだまだ沢山ある。別の機会に皆さんに知ってもらいたいし、我が国の自動車産業のレベルの高さを考えてもらいたい。

1960年代と1980年代のショーカーも見てみたが1970年代のショーカーに対するものと同じ気持ちが持てなかった。何が違うのだろうか。1950~1960年代のモーターショーは市販車と市販を前提としたモデルのお披露目の場だったような印象を受ける。反対に1980年代は技術が大きく進歩し、景気も上を向いていく時代だったからか予算をかけたコンセプトカーが目立つ。中間の'70年代はモーターショーに相応しいドリームカーと、市販車をベースに今で言えば「東京オートサロン」的なノリのカスタムカーが共存していて、私にとっては身近なカッコよさを感じてしまうクルマが多いのである。

今日は12台のショーカーをピックアップしてみた。この中から栄冠の「トウキョウ・モーターショー・カー・オブ・ザ・イヤーズ・オブ・ザ・セブンティーズ」に輝くのは果たしてどのクルマか。パンパカパーン、マツダRX510に決定!   審査員長の龍虎先生に訊いてみましょう。先生いかがでしたか。「ハイ、爬虫類をモチーフにしたところがインパクトがあってカッコよかったと思います。」 優勝車にはトロフィーとペアウォッチ、そしてレプリカを作ってもらえる権利が授与されます。

光岡自動車さん、作ってくれないかなぁ。いや、でもベース車の確保が難しそうだもんね。光岡さんにはマツダRX500みたいなものを作っていただいて、オートサロンに出ている自動車整備の専門学校の学生諸君に立ち上がってもらいたい。腕利きの旧車会のお父さん達はどうだろうか。実車がダメならばプラモでも十分に嬉しい。これを書いている時にGTO R73-Xのプラモを製作していた方のブログを見つけた。雑誌『 model cars』さん、企画してください。EX-7とかRX500などは禁止というルールで。