付加価値のない自動車会

~副題 クルマだらけの間違いづくし~

Unaffordable at any price

休みの日はホビーオフ巡り。先日、面白い『ホットウィール』を見つけた。写真が無くて申し訳ないが、1台はナッシュ・メトロポリタンのプロストックっぽいやつ。『Metrorail Nash Metropolitan』と書いてある。2002年のものでCollector No. 206。相当ロングノーズ化されていて、ボンネットからブロアーとエアスクープが突き出ている。もう1台はシボレー・コルベア。『Vairy 8』(2003年、Collector No. 023)という創作品。こちらもプロストック風だが、ぱっと見は、よりオリジナルに近い。だが、よく目を凝らすとアクリルのリアウインドウがエアスクープになっており、リアのエンジンフード全面にパンチルーバー(この呼び方でいいの?)が切られている。エンジンはリアから運転席直後に移設されミッドシップだ。エアファンネルが8本。ということはV8かと思いきや、水平対抗のエンジンブロックのように見える。名前から考えてもフラット8なのだろうか。こんな細かいところにも創作者はこだわりを持って造作していたことを思うと、ミニカーを買ってきてすぐに飾るのではなく、一台一台じっくりと観察してみるものだと教えられたような気がする。税込み324円。これなら2台買ってもバチは当たらん。

前回、駄目グルマの特集本を紹介した。駄目グルマを敢えて慈しむといった新しいスタイルが定着したようだ。しかし駄目グルマの本自体は以前にもあった。Eric Petersの『AUTOMOTIVE ATROCITIES! THE CARS WE LOVE TO HATE』(Motorbooks International)が2004年だから、そこから遡ること約15年、Timothy Jacobsというアメリカ人が『LEMONS THE WORLD'S WORST CARS』(Smithmark Publishers、1991年)を著している。「レモン」という単語がクルマに使われる時、それは「欠陥車」を意味する。かなり昔から存在する英語の俗語である。私が小学生の頃、欠陥車を「レモン」と呼ぶということが自動車雑誌に書かれていたのを思い出す。

この本はここ10年くらい前から出始めた同種の本よりも生真面目だ。1763年(本書ではそう書かれている)のキュニョーの三輪蒸気自動車から始まり、1934ー1937(昭和9年~同12年)のデソート・エアフロー/クライスラー・エアフロー(これも常連さん)が登場するなど、約半分は第2次世界大戦前のクルマにページが割かれている。

この本にも御三家が登場する。フォード・エドセル、シボレー・コルベア、フォードピントの3台だ。ちなみに郷ひろみ西城秀樹野口五郎は「新御三家」だから関係がない話。フォード・エドセルは単にスタイリングが醜いというだけでどこへいっても酷評されているから可哀想である。これは好みの問題だからね。話は逸れるが、未来の駄目グルマとしてポンティアック・アズテックもよく出てくる。50年に一度の逸材だから既に殿堂入りしているエアフロー兄弟と肩を並べる日が来るのは確実と見られる。フォード・ピントは後ろから追突されると出火したんだって。アプルーブド欠陥車に決まり。

中でも最もセンセーショナルだったのは、’60ー'69モデルイヤーのシボレー・コルベアだろう。社会活動家で、かつて大統領選にも立候補した弁護士のラルフ・ネーダーがこのクルマの操縦安定性に疑問を呈した。紙面の都合で技術的なことは割愛する。でないと素人であることがバレる。ウェット路面上やオーバースピードでカーブに進入すると、急にリアが滑り出し、スピンや転倒が起きたという。GMには、実際に事故を起こしてしまったユーザーからクレームが寄せられ訴訟も起きた。GM側も放置していたわけでない。’65モデルから、リアサスペンションに根本的な対策を施し安全なクルマに仕上げた。しかしその矢先、同じ年の1964年にラルフ・ネーダーの『Unsafe at any speed』が刊行されて、消費者の信頼は遠ざかっていきセールスも落ち込んでしまった。

いつもシボレー・コルベアが取り上げられると、数行でさらっとラルフ・ネーダーの『Unsafe at any speed』によって市場から葬り去られたような記述がなされているから、この本がまるごと一冊コルベアとそれを作ったGMに対する糾弾本のように思う人がいるかも知れない。しかしそれは事実ではない。

私は20年くらい前に偶然図書館でこの本に遭遇した。まさか日本語版が出ているとは思わなかった。結構分厚い本だったことを覚えている。全体的に新車開発やマーケティングには多額の投資をするくせに、安全性対策を疎かにしているアメリカ自動車業界全体を相手に批判を展開した本である。あまりよく思い出せないが、章ごとに、例えば事故が発生した時のフロントウインドウシールドの割れ方の危険性を指摘し、より安全な合わせガラスの採用を提言したり、シートベルトの標準装備の必要性を訴えている章もあった。さらに記憶が正しければ、あの憧れの的である’59年型キャディラックを引き合いに出し、後続していたバイクライダーが事故で前方に身を放り出され、前を走っていたキャディラックのテールフィンに刺さり失明してしまった事故も取り上げるなど、コルベア以外にもクルマの構造的欠陥がもたらす危険性を広く指摘しているのである。

こんなことを書いていたら、改めてきちんと読んでみたくなった。だが、日本語版のタイトルが思い出せない。ネットであれこれ遠回しに調べてたら出た。「どんなスピードでも自動車は危険」だって。なんだ直訳か。へぇ~1969年にダイヤモンド社が出していたんだ。重厚なビジネス本のような体裁でありながら当時の価格は400円。

よし古書を探すぞ。神保町の店にもないのか。おおっ、アマゾンでヒット。「5,584円から中古品...」では全く手も足も出ない。このまま引き下がっては悔しいから、ひとこと言わせて欲しい。「予算ネーダー、買えネーダー」なんつって。グランプリ出版さん、三樹書房さん、版権買い取って文庫本化してくれたら、今すぐお口にチャックします。