付加価値のない自動車会

~副題 クルマだらけの間違いづくし~

チープシック ワ・タ・シ流

『カーチェイス映画の文化論』(リム出版新社、2006年)の中で著者の長谷川功一さんは、スティーブ・マックイーン主演の『ブリット』(1968年公開)はカーチェイス映画ブームの火付け役となっただけでなく、コップ・アクション映画というジャンルを確立したと述べている。1971年、『ダーティー・ハリー』が公開された。ブリットとハリー・キャラハン、どちらも権力や体制に抗い、己の信念に忠実な「カウボーイ・コップ」像を描いているが、カーアクションシーンにおける両者のキャラクターには明確な違いがあると長谷川功一さんは分析されている。ブリットが自信に根差した高度なドライビングスキルで犯人を追い詰めていく一方、ハリーについて引用すると、「どちらかと言えば、『しょうがないなあ』という感じでハンドルを握っている」「カーチェイスなんかやりたくないが、他に選択の余地がないからやる、という雰囲気だ」ということらしい。

確かに、『ダーティー・ハリー』でハリー・キャラハンが駆るのは何の変哲もないセダンである。いつも単にあてがわれただけの冴えないセダンでカーチェイスに巻き込まれてしまう。そんな中でも特にイケてないのが『ダーティー・ハリー5 』(1988年公開)に登場するオールズモビルだ。これは酷い。同じ平凡な4ドアセダンでも『ダーティー・ハリー2』に登場した’71か’72のフォード・ギャラクシー(LTDだったらゴメンあそばせ)を今の日本で乗っていたら、それはオシャレになるが、1985-1990のオールズモビル98では女にモテないのである。同時期のデルタ88がGM Hボディで98がCボディ。ホイールベースが同じでフロントグリルが似ているから紛らわしい。シリアルキラーに追われて逃げるオールズモビルが98と分かるまで随分と時間がかかった。クラシカルな細い縦長テールランプと後ろの窓が直立している方が98だからみんなも参考にしてね。まあ、間違えたところで「88 vs 98論争」が勃発することのない平和なクルマ。オーナーイメージは、「Niagara Falls(ナイアガラの滝)」と書かれたパステルカラーの土産物Tシャツをお揃いで着てる白人老夫婦。Tシャツごとくれないかなぁ。とにかく地味の5つ星。うちのお母さんが前に乗っていたリベルタ・ビラといつか勝負させなければならない日が来るだろう。

架空の話というか妄想だが、もしも現代の日本にブリットとハリー・キャラハンが居たとすれば、彼らはどのようなクルマをチョイスするだろうか。スティーブ・マックイーン型であれば、レガシィB4ブリッツェンが似合うと思う。カーチェイスシーンなのに全くドリフトすることなく、あっという間に犯人を追い詰めてしまうのだ。他方、面倒くさそうにカーチェイスをするクリント・イーストウッド型にはいかにも支給されたかのようなものが相応しい。私はブルーバード・シルフィを推したい。アリオンインプレッサ・アネシス、キザシなど、警察に使われている車両は他にもある。だが、私はブルーバード・シルフィの平べったい感じのプロポーションが好きなのである。横から見るとフォード・クラウン・ビクトリアやマーキュリー・グランドマーキスをそのまま小さくしたようなスタイルに見えるとか見えないとか。

映画やドラマに登場する劇中車もよいけれど、こんな妄想ストーリーを描き、気持ちの持ちようによってはお洒落グルマに小化けする可能性がないこともないようなクルマ選びを提唱したい。

先ずはブルーバード・シルフィを仕入れる。カーセンサーで見たら車両が1,000円なんてのもあった。安過ぎ。だいたい15万円くらいで選べる。乗り出し価格は高く見積もっても35万円くらいか。グレードは1,500ccの低いやつが金がかからない。タイヤサイズも175/70R14だから頼りなくて丁度いい。次はカスタマイズ。ホイールキャップは要らない。純正鉄ホイールを黒く塗ろう。そこにB15型サニーの営業車に着いているプラスチックのセンターキャップを装着。車高はそのまま。この年代に似合えばものすごく細い下向きのマフラカッターを付けておしまい。

「こんなの乗ってたら私服までダサいと思われるよー」と言っては、ローダウンしたり、YAKIMAのルーフラックを付けてはいけない。また、2,000ccのトップグレードを買ってきてドレスダウンし「スリーパー」に仕立て上げようなんて考えもダメ。コンセプトがズレてしまう。そういう時には、初心に戻り、「毎日あてがわれた車両をぶっ壊して、署に戻ると血相を変えたボスに請求書を叩きつけられながら怒鳴り散らされている『敏腕はみだし刑事なんだ俺』と自分に言い聞かせてください。

なぜ、お金をかけてはいけないかというと、こういうクルマには10代、20代の若者に乗って欲しいから。私のようなおっさんが乗ると、河原でサボっている外まわりの人と全然見分けがつかず映画のワンシーンにはならない。若者にはお金をかけない分、ライフスタイルで頑張ってもらうしかない。これだけは約束して欲しい。クルマに乗り込む度にやるせない表情で「泣けるぜぇ」